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美術史講座

<第1回> 序章 創・造の歩みと美術体系

写実から抽象に及ぶ実践美術史の体系と美術生成のシステム


創造とは歴史を超えることです

 ある個性が、何かに惹かれ、心うたれる出会い、これを美学的には美的体験と呼びますが、この出会い(モチーフ)に生成し必然するあらわれ(フォルム)が芸術作品です。したがってこの芸術作品は、その個性の眼と精神と手の全体系をもの語る「生の証し」となります。
 また、そうした芸術作品が美的体験を生むこともあり、この出会いを「芸術体験」と呼んで、無限的な場での美的体験を研究する美学に対して、芸術学という領域を形づくるものとなります。美術史は、この芸術学の領分です。
 云うまでもなく、美術する創造的個性の生成にはこの二つの体験の質と量が大きく作用しているのですが、さらにその体験のしかた(学びかた)が特に重要です。
 この学びかたがその精神(知情意)の全体をかけた、大きく深く、かつ論理的体系的なものであれば、その体験は一つの個性の眼と精神と手の綜合的進化に大きな契機となります。すぐれたすべての芸術家は、こうして日々の営為や芸術作品との出合いに創造されてくるのです。日々と歴史に学び、これに拓かれた個性によってこそ「歴史を超える創造」も可能になるのです。
 日々の真実が芸術の真実(美)となるレアリスムに始まり、新しい真実を生みだす芸術の可能性を試みる純粋絵画(抽象絵画)におよぶ西洋近現代美術史を、眼と精神と手の全体で画作し学び超えるための体系が、<創・造の歩み>です。

 本講座は、この<創・造の歩み>No.1〜No.12を、順不同で随時連載していく予定です。

●<創・造>の歩み/目次
No.1
写実主義

Realisme

<クールベの現実>
見えるものを 見えるがままに
No.2
本然主義

Naturisme

<マネ/ドガの、行きずりの日々>
あるがままの実態、見え得る事実を
No.3
印象主義

Impressionnisme

<モネの、この場この一瞬>
出会い・媒介の現象学──ニンフの美学

No.4
新印象主義

Neo
Impressionnisme

<スーラの形而上学的世界>
量子化と再構成の造形学「絵は色でつくられる」
No.5
構造・綜合主義

Struturisume,
Synthetisume

<セザンヌの統一場>
生と知・主客の綜合「自然は内にある」
No.6
象徴主義(1)

Symbolisme

<ゴーキャンの楽園>
直観と象徴と造形の大地。「芸術とは一つの抽象だ─」
No.7
象徴主義(2)

Symbolisme

<ルドンの宇宙>
心象・内在表象の夜 ─世紀末デカダン・パルナッシャン
No.8
野獣派 (1)

Fauvisme

< ヴラマンクの生>「表現としての絵」
表現契機の変革 ─「芸術的真実より人間的真実を─」
No.9
野獣派 (2)

Fauvisme

<画家マチス>
「絵としての表現」;表現法の変革
No.10
立体派

Cubisme

< ピカソ/ブラック;質量と多面性・繊細と幾何学の精神>
フォルムの分析・構成転換・昇華の試み
No.11
超現実主義

Sur Reslisume

<ダダからの復活、現在の複合性>
現実 --表象と実体の多次元性の探求
No.12
抽象化と
抽象絵画

Abstruction
l'Art Abstrait

<カンディンスキー の点・線・面>
シュジェとフォルムの解放・抽象・構成・表現の試み


創造のシステムを学ぶ

 この<創造の歩み>は画作する立場から書かれたもので、実践のための美術史であるところが、従来一般の美術史とは大きく異なるものとなっています。これを学ぶには、一つの作品がその「モチーフの内に立つことに生成 する」ように、その芸術表現の内的必然に身を置いて、「創造」という活動に人間のどのような力がいかに働くのか、その全体のシステムを自覚的に体得していくことを目指しています。美術史の現象面の手法や形式の模倣、あるいは乾いた編年史や教養など、抽象的な態勢では創造の本質が見えなくなり、やがてはそれ らが堆積されて、自由な感性や創造性を圧迫するものとなります。
 芸術は、高度な全人格的活動の綜合によってなされるものと考えられます。したがって、この創造のための美術史も、自分の個性「眼と精神と手」の全体で体 系的に学ぶことが、大切な条件といえるでしょう。つまり、そのすべてを見、識り、目的意識をもって価値判断し、組織的・実践的に学ぶのです。そうした実践 によって、その歴史の内的必然と一化し、それを超える個性の創造的進化もまた可能となります。個性を変革し、つねに新たな創造に向わせる力、それがよき出 会いなのです。
 いかなるモチーフいかなる表現にも自在な、創造的個性の宇宙は、こうして進化していくのです。

美術体系図

美術生成のシステム

 一つの創造は、創意・創作とその具体的制作(造り)の二つの異なる次元の綜合として考えることができます。また、この活動の主体となる個性の全体、あるいはその背景にひろがる史的社会的条件などのすべてがそこに働いています。
 この創から造の全体系に身を入れる方法の有機的システムが<美術体系>です(上図と図表)。

  まず、表現される内容が生成する過程を見ていきましょう。ある個性(主体系)と、ある外界(客体系)との出会いによって、美的な感銘・感動が生まれます。 この主客の複合によるある力、それがモチーフ「契機」です。あらゆる表現の根源となる力です。そのモチーフの持続が、その美のイメージ「表象」をつくって いきます。次にそのイメージがどのような意味内容を持つのかを理解する段階がすすみ、この過程で自分が何を表現したいのか、内的な構想・主題(テーマ)が まとまっていきます。さらにその主題をどのように表現していけばよいか、構図や配色の具体化のための構想ができていきます。この構想までが「創」の次元です。
 次に「創」の次元の内容を実現する過程が、「造」の次元として展開していきます。まずその内容に見合った媒体・資材と空間の選択をする「構成」、次にその形成過程「構成技法」、その統一「構成場」、さらなる仕上げのための「手法」、そして最後にあるべき形式への完成「表現」まで、が「造」の 次元です。
 この美術体系は、美術の生成進化のシステムを、自覚的な「生と学と技法の綜合」に学び超えていく創造的個性のための方法論なのです。

 実践美術史<創造の歩み>は、目次No.1写実からNo.12抽象までのそれぞれが、美術体系の9次元の全体で解説されています。

●美術体系の主要項目/各項目別の内容
主客無限の
超越的宇宙
(COSMOS)
1. 客体系

(Objet)

外界(無限)。時空、もの・こと。時には一つのことば。
2. 主体系

(Sujet)

内界(無限)。生(資質・態勢)の宇宙。

──美術体系図の(0)

3. 契機

(Motif)

主客の出合い、その結び目(機縁)。画因、対象。

──図の(1)

4. 表象

(Image)

心像。発想。モチーフの統一体。

──図の(2)

5. 構想

(Construction)

意識内容と造形計画との方法的複合、変換。

──図の(3)(4)(5)

6. 構成契機

(Composition)

構想と構成要素要因と媒体資材との具体的複合場。

──図の(6)

7. 技法

(Technique)

制作法。実践的方法論と構成場の統一。

──図の(7)(8)

8. 手法

(Maniere)

作品化の技巧、造形価値・芸術性への昇華。

──図の(9)

9. 表現

(Finis,Style)

完成・提示の方法(ものごととしての価値づけ)。

──図の(10)

史的社会的価値
への昇華(無限)
 


 (関根英二 著/<創・造>の歩みより)


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