「デッサンは美術の基礎をつくる」ということはひろく知られ、油絵や水彩などを始める時、まずデッサンを学ことを考える人も少なくないと思います。ただそのデッサンの内容が問題です。美術の基本となるものは何か、その基本とデッサンをいかに考えれば明日の自由な展開が可能となるのでしょうか。
まず、美術を構成する基本の要素とは何かを考えていきましょう。下図は、中央のデッサンからデザイン・水彩・油彩(具象〜抽象)など、多様な表現が展開されている様子を示したものです。これらは美術のごく一例にすぎず、それでもこのように表現形式や用いられた画材は様々となる訳ですが、それらに共通する要素がデッサンで学ばれ、そこから自由な表現展開がなされていく、という図解となっています。では、あらゆる視覚的表現に共通の基本要素とは何なのでしょうか。
第一に、空間性をつくる「形」が挙げられます。形には分量・位置・方向性・図形性などの属性が含まれ、これらの要素は構図の場を成すものとなります。
次の要素は、現象性をつくる「色」です。色には明度・色相・彩度といった属性が含まれ、配色の場を成すものとなります。これら「形と色」だけがすべての視覚的表現に共通の最も基本的な要素で、いわば造形の言語と言えるものです。
造形のことばを多く識ることは、多様な表現展開の可能性が拡がることにつながっていきます。たとえば、形については、直線的・曲線的・規則的・不規則的・点・線・面的など、あらゆる形に対応できる感覚が出来て行けば、構図のバリエーションが豊かになります。また色も同様に、暗い色から明るい色まで、ダイナミックな配色から静的・統一的な配色まで、様々な色や配色を感じ読みとれる感覚をひらいていければ、配色構成の幅がひろがっていくのです。
ただ、言語の羅列では表現にはなり得ません。形と色をいかに組み合わせ、構成表現して行くか、その画面構成の方法、いわば造形の文法を学ぶもこともまた必要となります。この造形の言語を識り、文法をマスターすることこそが、デッサン実践の第一の目的なのです。
ではこの造形の言語と文法は、どのようにすれば学べるのでしょうか。基本的にリアリズムに基づいた、体系的なデッサンの実践が必要です。リアリズムの要請は、実証的にありのままの現実を把握することです。現実の様態(フォルム)を自分の生の感覚で感じ取り、その成り立ちを形と色のしくみとして把握し、その質感と固有色、現象特性と空間的構造性(質量感)、力学的体制(力動感)などのありかたとして、木炭・鉛筆・コンテ等のシンプルな画材で、モノトーンを主にして構成表現していくのです。
こうしたデッサンを実践して行く過程で、形象感覚・色彩感覚とそれらの構成表現力が豊かになっていき、その後の自由な表現展開へつながる真の基礎力を体得することが可能となるのです。また、この基礎力は自分自身の創造的個性をつくる力ともなっていきます。
アトリエ・ルボーでは、永年の専門的な実践研究による<美術体系(ルボー・システム)>を、指導のバックボーンとしていますが、これは、美術とはなにか、その基本はどうあるべきか、どう学べば明日の自由な展開を可能にする豊かな感受性・創造性・構成力などが培われるか、などの要請のすべてを含んで生まれたシンプルな体系です。
<美術体系>は、デッサン技法、構図構成学、色彩学、美学美術史、の各分野に亘り、美術の新しい学び方の試みとして、美術科教育学会・日本色彩学会・カラーフォーラムJAPANなどで研究報告され、その資料はCiNii(国立情報学研究所)にも所載されています。
本講座は、<美術体系>のうちデッサン技法をまとめたテキスト、<デッサンのすべて(関根英二著)>よりその内容を抜粋し、随時掲載して行く予定です。
>>デッサン講座第2回
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