この<創造の歩み>は画作する立場から書かれたもので、実践のための美術史であるところが従来一般の美術史とは大きく異なるものとなっています。これを学ぶには、一つの作品がその「モチーフの内に立つことに生成する」ように、その芸術表現の内的必然に身を置いて、「創造」という活動に人間のどのような力がいかに働くのか、その全体のシステムを自覚的に体得していくことを目指しています。美術史の現象面の手法や形式の模倣、あるいは乾いた編年史や教養など、抽象的な態勢では創造の本質が見えなくなり、やがてはそれらが堆積されて、自由な感性や創造性を圧迫するものとなります。
芸術は高度な全人格的活動の綜合によってなされるもの、と考えることができます。したがって、この創造のための美術史も、自分の個性「眼と精神と手」の全体で体系的に学ぶことが、大切な条件といえるでしょう。つまり、そのすべてを見、識り、目的意識をもって価値判断し、組織的・実践的に学ぶのです。そうした実践によって、その歴史の内的必然と一化し、それを超える個性の創造的進化もまた可能となります。個性を変革し、つねに新たな創造に向わせる力、それがよき出会いなのです。
いかなるモチーフいかなる表現にも自在な、創造的個性の宇宙は、こうして進化していくのです。
一つの創造は、創意・創作とその具体的制作(造り)の二つの異なる次元の綜合として考えることができます。また、この活動の主体となる個性の全体、あるいはその背景にひろがる史的社会的条件などのすべてがそこに働いています。
この創から造の全体系に身を入れる方法の有機的システムが<美術体系>です(下図と図表)。
まず、表現される内容が生成する過程を見ていきましょう。ある個性(主体系)と、ある外界(客体系)との出会いによって、美的な感銘・感動が生まれます。この主客の複合によるある力、それがモチーフ「契機」です。あらゆる表現の根源となる力です。そのモチーフの持続が、その美のイメージ「表象」をつくっていきます。次にそのイメージがどのような意味内容を持つのかを理解する段階がすすみ、この過程で自分が何を表現したいのか、内的な構想・主題(テーマ)がまとまっていきます。さらにその主題をどのように表現していけばよいか、構図や配色の具体化のための構想ができていきます。この構想までが「創」の次元です。
次に「創」の次元の内容を実現する過程が、「造」の次元として展開していきます。まずその内容に見合った媒体・資材と空間の選択をする「構成」、次にその形成過程「構成技法」、その統一「構成場」、さらなる仕上げのための「手法」、そして最後にあるべき形式への完成「表現」まで、が「造」の次元です。
この美術体系は、美術の生成進化のシステムを、自覚的な「生と学と技法の綜合」に学び超えていく創造的個性のための方法論なのです。
実践美術史<創造の歩み>は、目次No.1写実からNo.12抽象までのそれぞれが、美術体系の9次元の全体で解説されています。
主客無限の超越的宇宙 (COSMOS) |
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1. 客体系(Objet) | 外界(無限)。時空、もの・こと。時には一つのことば。 |
2. 主体系(Sujet) | 内界(無限)。生(資質・態勢)の宇宙。 ──美術体系図の(0) |
3. 契機(Motif) | 主客の出合い、その結び目(機縁)。画因、対象。 ──図の(1) |
4. 表象(Image) | 心像。発想。モチーフの統一体。 ──図の(2) |
5. 構想(Construction) | 意識内容と造形計画との方法的複合、変換。 ──図の(3)(4)(5) |
6. 構成契機(Composition) | 構想と構成要素要因と媒体資材との具体的複合場。 ──図の(6) |
7. 技法(Technique) | 制作法。実践的方法論と構成場の統一。 ──図の(7)(8) |
8. 手法(Maniere) | 作品化の技巧、造形価値・芸術性への昇華。 ──図の(9) |
9. 表現(Finis,Style) | 完成・提示の方法(ものごととしての価値づけ)。 ──図の(10) |
史的社会的価値 への昇華(無限) |
https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/2/26/Louvre_Parijs_25-02-2019_10-31-58.jpg Paul Hermans [CC BY-SA 4.0], ウィキメディア・コモンズ経由で
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